このプロジェクトを立ち上げた、理由。

Music Caravan Project〜旅する音楽祭〜

これはコロナ禍から、そして大袈裟かもしれませんが私自身の人生の、再生の物語なのかもしれません。

何故、こんな無謀なツアーを必死になって今、企画しているのか。

SNSなどで断片的にはお伝えしていますが、その理由と流れを、まとめて書いておきたいと思います。

長くなりますが、お付き合いください。

それは突然、始まった

2021年5月。

その頃、フリーランスの音楽家である私たちは国からの助成金を申請して受け取ることで、なんとかその日を暮らしていました。

いつまで続くのか。

失業しても保障はなくこの助成金もいつまで続くのかもわからない。

有り余った時間の中で、一体これからどうしたらいいのか、どう生きていくべきなのか、今までの自分を振り返る日々。

そんな中、フランスから1通のメールが届きました。

パリ、そして南仏へ

「メールじゃなくてどうしてもskypeで話したい」

Mezcal Jazz Unitのマネージャー、エリザベスからでした。

彼女はなんと、10年以上前から私にコンタクトし、彼らやフランスのミュージシャンとの共演を依頼してくれていました。

コロナ禍以前は、私はバンドネオン奏者として忙しい毎日を送っていたので、長期間海外に行く計画をなかなか立てることができなかったのです。

しかし今は、時間はあっても日本からフランスへ行くことができるのかどうかも分かりませんでした。

また、以前のように興味深ければ採算度外視で海外に行ってしまう、という冒険もできない経済状況です。

その頃フランスではコロナ禍も終息している時期で、コンサート活動も復活しているようでした。だから、来ないか、と。

パリと行き来している知り合いのアーティストを思い出し、入出国の件を聞いてみると、「大変だけどできる」ということで、実はパリで演奏を11月に依頼したかったという話になりました。

私は迷わず、フランス行きを決めました。

今でも、あのタイミングでなぜエリザベスがあんなに話を進めたがっていたのか、不思議に思います。

Mezcal Jazz Unitとの出逢い

パリから快速電車で5時間。

地中海に程近い、アグドという駅でエリザベスとバンドのリーダー、エマニュエルが待っていてくれました。

電車が事故で遅れてやっと到着

パリへは3回目でしたが南仏は初めて。

1週間でしたが、リハーサル、ラジオ局出演、ソロでの学校公演、バンドでの2つのコンサートと充実した滞在でした。

リハーサル リーダーのマニュと
リハーサル サックスのクリス
ラジオ出演
サーカスの学校にて
カステルノーでのコンサート
ちびっこも一生懸命聴いてくれた
感動的なコンサートだった

初めてのミュージシャンたちとのセッションはとても刺激的でした。

メンバーがとにかく音楽的にも人間的にも素晴らしく、初めて会ったとは思えないくらい楽しい時間を過ごしました。

逆に、演奏に対するプレッシャーもものすごくありました。

バンドネオンという楽器は、ジャズプレイヤーとアドリブでやりとりするためには構造上かなり難しいです。

そういう意味ですごく練習したし、私のオリジナル曲も提供して音楽的な交流も深められたと思います。

Mezcal Jazz Unitってこんなバンドです。

2021年のツアー

Mezcal Jazz Unit公式HP

MEZCAL JAZZ UNIT, the band

なぜ、私だったのか

この滞在の後、すぐに2022年4月の一カ月の南仏ツアーの打診がありました。

嬉しかった。でも。。。

彼らのバンドのコンセプトは”ici et ailleurs”(ここと遠く)。世界各国を訪れ、その国の民族的な楽器奏者と演奏し、音楽を通じた国際交流をすることです。

私は日本人だけれど、バンドネオンはアルゼンチンで使われている楽器。日本の伝統楽器じゃない。それでいいの?なんで、私なの?

「あなたの音楽がとても好きだから。」

この一言で、もう、何もいらない、と思いました。これでいいんだな、と。

私は各コンサートで一曲、ソロを弾いていました。弾き終わって周りで聴いているメンバーが涙を浮かべていたこともありました。エリザベスに至っては、滞在先の家の玄関前でずっと私の練習を聴いていたり。本当に、嬉しかった。

彼女はきっと、私の音楽だけではなくてライフスタイルや生活にも興味を持っている。ビジネスとしての音楽よりも、この人間が奏でる音楽として、面白がっていてくれるんだと。

そういえば、彼女の第一声は、

「あなた、冷蔵庫を持っていないのよね?」でした。

環境問題に対しての考え方が進んでいるフランスは、私にとっても興味深い場所でした。

2022年には現地レストランでで味噌作りも伝授しました!

南仏でのツアー

入出国の対策は本当に大変でした。

刻々と情報が変更されるので、インターネットでチケットを購入せず旅行会社を通し、ワクチンパスや必要な書類、待機日数を常にチェックしていました。

しかし、4月に向けて希望があったのは大きな救いだったと思います。

2022年4月の下旬から約1ヶ月、今度はパリには立ち寄らずに南仏に直接向かい、1ヶ月の滞在をしながらのツアーでした。

1ヶ月の滞在でバンドでは8公演、ソロで1公演、合計9公演を企画してくれていました。

日本ではまだまだコンサートの実施は難しい時期でしたが、ちょうどフランスでは感染が下火になっていたようでラッキーでした。

演奏内容はMezcalと私のオリジナル曲。

日本語で「長距離プロジェクト」と名付けられ、国境を超えてお互いの文化に刺激を受けながら作った曲を演奏しました。

リーダーのエマニュエルは訪れた国々をイメージした素晴らしい曲をたくさん書いています。

メンバー一人一人がそれぞれの表現をのびのびとしている感じ。

彼らは30年以上ほぼ同じメンバーで活動を続けています。

奇跡だと思います。

ジャズクラブで、美術館で、個人宅で。

山間の古いワイナリーで、気持ちいい野外で。

最後の美しい教会でのソロコンサートは、演奏しながら涙が止まりませんでした。

さらに深い交流へ、そして気づいたこと

滞在先の美しい町、カステルノーでは、前回のコンサートに来てくれていた、マネージャーの友人のセカンドハウスに滞在しました。一軒家で楽器の練習も自由にでき、自炊もできて快適に過ごすことができました。

屋上からの景色

また、コンサートの合間の日程でメンバーの家に招待してくれました。

信じられないくらい高い山のてっぺんの石造りの家に住んでいたり、海まで歩いて30秒の所に自分でリノベーションした家に住んでいたり。

海のすぐそばに住んでいるクリス
お父さんが弾いていたバンドネオン
ダニエルは山に住んでいる

それぞれの家族とも仲良くなり、楽しい思い出がたくさんできました。

みんな、とても自由。

そして、自分自身が納得できる素敵な生き方をしています。

彼らは愛想笑いや話を合わせたりはしません。

問題があれば徹底的に話し合うし、妥協もしない。

個人のプライバシーはたとえ家族であってもとても大切にします。

でも、話しているほとんどがジョークだし笑、その笑顔のチャーミングなこと!!!

私はこの感じが、とても腑に落ちました。

ずっと、わがままだとか協調性がないと言われ続けてきましたが、彼らと一緒にいると私の行動は、ごく普通のことなのです。

南仏で、初めて自分を肯定できた。

これは、大きな大きなことでした。

私が悪いんじゃない。

文化の違いなんだ!(私はフランス人じゃないけれど笑)

私は本来の自分に戻ることができ、そしてとても明るくなったと思います。

生まれ変わった気分でした。

フランスと日本の文化芸術に対する見解の違い

ある時、みんなで「音楽家の立場」についての話になりました。

たとえばインドでは、音楽家は神様の声を届ける神聖な職業として尊敬されています。

Mezcalもインドで演奏した際、特別な経験をしたといいます。

「日本って、どうなの?」

私は率直に、日本での自分の立場を話しました。

フランスではプロの音楽家だという明確なガイドラインがあり、その証明があれば最低限の生活保障があります。

だから、ビジネス的な仕事に追われることなく、自分たちの音楽を追求できる。そうやって芸術が発展してきた国なのです。

過去にも色々な国でこういった話になりましたが、文化芸術に対しての助成が極端に少ない日本は、非常に特殊だと思います。残念ながら。

しかしそれも含めて、この国で自分が一体何ができるのか、考えてみたくなりました。

帰国後、鬱になる

開放的な南仏から帰国すると、日本はまだまだコロナ禍でした。

どんよりと暗い空気。

満員電車は毎日走っているのに相変わらずコンサートは実施できない。

人のいない通りでも全員がマスクをしている。

このご時世だから。って、いつまで言い続けるの?

納得いかないことばかり。

でも、声を上げられない。

なぜ?

時差ぼけでぼんやりした頭で、本来の自分に戻った私は考えました。

すごく無理目で、すごく楽しいことにチャレンジしたい!

文句を言っている暇があったら、自分自身が変わればいい。

そして、ペーパードライバー歴20年を打ち破って車の運転を始めました。

一生運転はしないと思っていたくらい、苦手なこと。

南仏でMezcalのメンバーは全てのPA機材を積み込んでコンサート会場に持ち込んでいました。

自分たちの手で、最高の音を届けるために。

私もそうなりたい!

鬱々とした気持ちはどこかに吹き飛んでいきました。

Florez Duoとの再会

2022年、初夏。

私の大好きな場所、山形県鶴岡市の限界集落、大鳥地区。

ここでは毎年「大鳥音楽祭」という手作りの音楽祭が開催されています。

そのクオリティーは高く、数々の音楽家、美術家、伝統芸能の継承者たちが訪れています。

Florez Duoの2人は大阪から10時間、車を飛ばしてやってきました。

音楽祭のステージでは、実行委員会や子供たちが野外ステージで踊り唄い、忘れられないものとなりました。

夏の関西ツアーでは彼らの事務所に滞在し、彼らの主催コンサートに出演させていただきました。

この3年、みんな、大変だった。

でも。

決して諦めない。

愚痴を言わない。

いつも、楽しい!

彼ら、そしてその音楽は強くて優しい。

逢った後、聴いた後、みんなが幸せな気持ちになる。

ツアーの最終日。

「僕たち、キミヨさんを助けたい。一緒に音楽祭作ろう!」

そう言ってくれた。

涙が出るほど嬉しかった。

来年のツアーでは東北公演にゲスト参加、そして関西公演を主催してくれます。

Florez Duoの公式HP

フローレスデュオ(FLOREZ DUO) – ここは南米民族音楽フォルクローレのFLOREZ DUOと民族楽器&スペイン語の教室 AMAUTAのホームページです。
ここは南米民族音楽フォルクローレのFLOREZ DUO(フローレスデュオ)と民族楽器&スペイン語の教室AMAUTAのホームページです。

このツアーのコンセプト

このツアーは、バンドネオン=タンゴ、ペルー=フォルクローレ、ヨーロピアンジャズ、そんななんでもありの世界の音楽ショーではありません。

この「悪魔の楽器」を操り操られて右往左往しながら精一杯生きようとしている小川紀美代、という人間と、深く繋がってしまったひとたちとの長い長い物語の中の一遍です。

それは奇しくもコロナ禍という渦の中を掻い潜り、ものすごいタイミングで織りなされているシナリオで出来ています。

個人で海外からアーティストを招聘して全国公演をするというのは、奇跡に近いと思います。

今、少しずつ歩み出せているのは、全国で協力してくれているみんなのおかげ。

物語はすでに、始まっています。

熱くなれ!

2018年、アルゼンチンからアニバル・トロイロの孫のフランシスコ・トルネ氏が博物館に所蔵されているトロイロの愛器を携えて来日、そのバンドネオンで日本ツアーを実施しました。

日亜修好120周年記念公演~タンゴの偉大なるマエストロ、アニバル・トロイロへの オマージュ~”Encuentro con Anibal Troilo 2018”

小川紀美代 | アニバル・トロイロ | バンドネオン
バンドネオン奏者、小川紀美代のコンサート「Encuentro con Anibal Troilo」の公式ページです。

「あの頃とは周囲の公演に対する熱量が、違いすぎる」

そう弱音を吐いた私に、

「なら、小川さんがみんなの分も何倍も熱くなればいいよ」

と言ってくれた人がいました。

東京、横浜公演打ち合わせにて

だよね。

で、こんなに長いブログを書いているわけです笑。

これからのこと

助成金の申請、興行ビザ申請の準備、東京、横浜、関西でのプレイベントの企画、そして、クラウドファンディングを立ち上げます。

やること山積みの2023年になりそうですが、どうぞ応援、よろしくお願いします!

旅するバンド、MJUが作り出す独自の音楽とバンドネオンのコラボレーション。

初来日のツアー、ぜひお越しください。

Music Caravan Project~旅する音楽祭~公式HPはこちらから。

音源や動画もアップしていますのでお楽しみください。「お問い合わせ」ページからご予約のご案内もしています。

Music Caravan Project 2023 | 小川紀美代
Music Caravan Project〜 旅する音楽祭 公式HP。2023年11月。バンドネオン奏者・小川紀美代とのフランス公演を経て、 Mezcal jazz Unit待望の初来日。 Florez Duoをゲストに迎えての、奇跡の日本ツアー。

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